ひと吹きにさまざまなメッセージを込めて。サッカーレフェリーたちのホイッスルへのこだわり
2026/06/05
Special Interview
Vol.03試合をコントロールし、フェアな競い合いをお膳立てする審判員にとって、ホイッスルは最大の商売道具であり最高のパートナー。トップレベルで活躍するプロフェッショナルレフェリーと草の根のサッカーを支えるボランティアレフェリー、それぞれの立場からホイッスルを吹く技術などをざっくばらんに語っていただきました。 ※Vol.01はこちら ※Vol.02はこちら
1984年生まれ、長崎県出身。ヴァンフォーレ甲府などでのプレーを経て2015年より審判活動をスタートし、2024年に元Jリーガーとして初のJFAプロフェッショナルレフェリーに就任。同年のJリーグアウォーズで最優秀主審賞を受賞した。
1986年生まれ、東京都在住。平日は会社員として勤務し、週末は近隣のサッカー少年団のボランティアコーチや3級審判員として活動する。審判としてはU-15、U-18、社会人などさまざまなカテゴリーを担当。中2男子と小6女子の父。

レフェリーにとっての「コミュニケーション」とは?
先ほど安田さんから「上級審判になるとコミュニケーションの質が変わる」というお話がありました。審判にとっての「コミュニケーション」はどんなものをさすものなのでしょうか。
御厨一般的に「コミュニケーション」というと言葉を介したものをイメージされることが多いかと思いますが、審判のコミュニケーションは笛、ジェスチャー、表情、選手に駆け寄るスピードなどさまざまな要素を駆使して円滑にゲームを進めていくということです。
ということは、笛の吹き方にも表現力が要されるものなんですか?
御厨もちろんです。「こっちに注目して」っていう時には強めになりますし、「あなたと会話がしたいです」「交代します」という時には軽くなります。「イエローカード相当ですよ」となると当然さらに強くなりますね。
安田私もその点は工夫しています。当事者にそのような意図はなくても、ファウルを受けた側や見ている人が「悪質だ」と感じるようなファウルに対しては、そういう感情を理解した上で強めに吹く。そうすると「ああそうだよな、見てくれているよな」っていう納得感につながるんじゃないかと思っています。一方でオフサイドやボールが手に当たってのハンドなどの軽微なものは「この距離で見てるから見えていますよ」「それは当たっちゃったよね」という感じ。笛の強弱が自分の感情や観戦者の感情をサポートするようなものであればいいなと思いながら笛を吹いています。
主審の感情を笛に乗せられる「バルキーン」
ちなみにホイッスルは何を使っていますか?
御厨モルテンの「バルキーン」をメインで使っています。バルキーンの特徴である「甲高くスタジアムに響き渡るキレのある音」を最大限に引き出すため、息を細く入れることを常に意識しています。
あわせて「ドルフィン」も持つようにしています。審判を始めたころはバルキーンのみだったんですが、隣のピッチの試合を担当する審判の方から「何を使いますか?」と尋ねられて答えたら「じゃあ僕は違う笛にするね」と言われて。要は、すぐ隣のピッチで同じ音色の笛を吹いたら選手たちが混乱してしまうから使い分けましょう、ということだったんですね。バルキーンはよい音を出すために多少テクニックが必要ですが、ドルフィンはどんな息の入れ方をしても比較的音が安定しやすいのが特徴です。
安田私もバルキーンを愛用しています。主審の感情や意図を笛の音に乗せられる感覚がバルキーンの良さだと思っています。自信がない時は如実に弱々しい音になりますし、覚悟を持って吹いた笛は決意の強さや判定の重さを表現してくれます。大きな音だけでなく「鋭さ」や「優しさ」といった少し複雑な表現も表せる素晴らしい笛ですね。
さらに笛を手元でしっかり持てるように「フリップグリップ」を装着しています。というのもレフェリー1年目のころ、試合中にホイッスルがストラップから外れて、笛を吹こうと思ったらない、という事態がありまして……(苦笑)。

御厨それはあせりますね(笑)。
安田2〜3分ほど試合を中断し、選手たちに探してもらいました。これを教訓に、フリップグリップを装着した上で、予備のホイッスルを必ずポケットに入れておくようになりました。
ホイッスルはどのタイミングで新しいものに替えていますか?
御厨「寿命」みたいなことはあまり意識していなくて、怪我をしたり失敗をしたときに気分を切り替えるために替えていますね。あとは昇級するとお祝いに名前入りのホイッスルをいただいたりするので、それに持ち替えたりといった感じです。
安田私はJFAが審判グッズをリニューアルするタイミングに合わせてホイッスルを新調することが多いので、「劣化を理由に替える」という感じではありませんし、壊れたこともありません。
御厨僕も壊れたことはないですが、歯型がついたりはしますよね。知り合いのレフェリーは吹き口にテーピングを巻くことで歯型がつくことを防止しています。
安田私も吹き口にゴムをつけて対応しています。
最後に、レフェリーに興味を持っている方に向けてメッセージをいただけますか。
御厨審判、ことプロフェッショナルレフェリーは大変なことも多いですが、それを上回るような大きな達成感を味わえる職業です。ぜひ一緒にやりましょう。僕も全力でサポートします!
安田本当の意味での審判の仕事は、フェアな競い合いをお膳立てすることだと思っています。技術的なことももちろん大切ですが、人として選手やチームに寄り添って、サッカーの楽しさをサポートすることが醍醐味だなと。一緒に走ったりボールを追いかける仲間が一人でも増えたら嬉しいです。


