ジュニア選手を守るためにーー成長期のカラダは、意外とデリケート!?横山先生と星合先生に聞いてみた!

ジュニア選手を守るためにーー成長期のカラダは、意外とデリケート!?横山先生と星合先生に聞いてみた!

ジュニア選手を守るために
ーー成長期のカラダは、意外とデリケート!?
横山先生と星合先生に聞いてみた!

女性アスリートの競技継続率の改善を目指す「Keep Playing」では、554人の女性・クィアアスリートの声から生まれたアンダーウェアブランドOPTとともに、さまざまな課題解決に取り組んでいます。

今回は「怪我を未然に防ぐ」をテーマに、成長期や女性特有の身体の変化に向き合いながら、プレーを長く楽しむために大切な知識と予防方法を紹介します。OPTメディカルアドバイザー・星合先生横山先生から現場で使える実践的なヒントを、2本の記事でお届けします。

背が伸びるってどういうこと? 成長期の身体のひみつ

みなさんは人生で最も身長が伸びるのはいつか、知っていますか?それは第一次成長期と呼ばれる新生児〜4歳頃の時期で、なんと、わずか4年で身長は約2倍になります。その後はペースが落ち着きますが、再び急激に伸びるのが第二次成長期、いわゆる「成長スパート(PHV)*」です。女子は10歳頃、男子は12歳頃に迎え、1年で女子は約7cm、男子は約8cmほど伸びます。身長が伸びるということは、骨や筋肉が増えるということ。その分、体重も増えます。つまり、成長期の体重増加は、身長が伸びているサインでもあるのです。

最終的な身長は、ある程度親の身長から予測できますが、成長期にバランスのよい食事や十分な睡眠をとることで、より高く伸びる可能性があります。

スポーツや習い事で毎日が忙しいと、どうしても食事や睡眠が後回しになってしまうこともありますよね。でも実は、身体づくりも練習のうちなんです。食べること、寝ることも、スポーツと同じくらい大切にしてほしいなと思います。

成長スパート(PHV)*
身長発育が最も盛んな(1年あたり7〜9cmの増加)年齢をPHV年齢といい、スポーツ競技団体でも取り入れられています。詳しくはこちらをご覧ください。

がんばりすぎは、怪我のもと!発展途上のカラダを守るために

身長が伸びるとき、骨が全体的にぐんぐん伸びるイメージを持つ人は多いと思いますが、実は骨全体ではなく、骨の両端にある骨端軟骨という部分が主に伸びていきます。この部分は成長には欠かせない場所なのですが、とてもデリケートで、強い力に弱いという特徴もあります。

もうひとつの特徴で意識したいのが、筋肉の成長とのバランス。骨は急にぐっと伸びるのに対し、筋肉は少し遅れて成長します。すると、成長スパートの時期には相対的に筋肉の長さが足りなくなり、関節の動きが制限され、関節まわりの柔軟性が低下することがあります。関節の動きが制限され、関節まわりの柔軟性が低下することがあります。

筋肉は骨についているので、ジャンプやダッシュのときに筋肉がぎゅっと縮まると、骨には引っぱる力が加わります。柔らかさが不足していると、そのぶん骨端軟骨に余計な負担がかかってしまうため注意が必要です。女子選手に限った話ではありませんが、特にランニング、ジャンプ、切り返しといった動作を含む競技では、骨端軟骨や骨の表面にストレスが繰り返し加わりやすく、成長期特有の怪我につながることがあるので気をつけましょう。

オスグッド病

太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)の収縮により、ひざ下のすねの骨にくっついている部分に繰り返し引っ張る力が加わり、骨がはがれ痛みが出ます。大腿四頭筋の柔軟性低下も原因の一つといわれています。

シーバー病

かかとの端の骨の部分がアキレス腱によりひっぱられ、かかとの後ろや側面に炎症が起こり、痛みが出ます。ふくらはぎの筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋))の柔軟性低下も原因といわれています。

骨盤裂離骨折

太ももの前(大腿直筋・縫工筋など)や後ろの筋肉(ハムストリングス)は骨盤の前や後下方にくっついています。ダッシュやジャンプなどの際に、これらの筋肉に骨盤の骨が強く引っ張られ、骨の端の一部がはがれるように骨折して痛みが出ます。骨盤にくっついている筋肉の柔軟性低下が原因の一つといわれています。

シンスプリント

ランニングやジャンプなどを過度に繰り返すことによりふくらはぎやすねの筋肉によりすねの骨の骨膜が引っ張られ、すねの後内側や前面に痛みが出ます。成長期前後によくみられ、ふくらはぎ(ヒラメ筋、後脛骨筋、長趾屈筋など)やすねの前の筋肉(前脛骨筋)などの柔軟性低下が原因の一つといわれています。

成長期のスポーツの怪我として、「疲労骨折」も見逃せません。どの年代でも起こりうる怪我ですが、特に10代に多いとされています。はじめのうちは「運動中は痛むけれど、休むとやわらぐ」といった症状が特徴。しかし、そのまま運動を続けると悪化し、回復までに時間がかかることもあるため、早めの受診が大切です。


「疲労骨折」が
起こりやすい部位

骨の同じ部位に小さな力が繰り返し加わることで生じる骨折です。すねの骨(脛骨と腓骨)、足の甲の骨(中足骨)など、多くが脚に起こるといわれています。

 

前回も紹介したように、疲労骨折は女子選手に多い怪我のひとつです。特に、①エネルギー不足、②無月経、③骨粗しょう症といった健康問題と関係があるとされています。

身体の痛みや違和感に加えて、初経がなかなか来ない、月経が3ヶ月以上止まっているといったサインにも気づくことが大切です。

成長期には、少しずつ男女の身体つきに違いが出てきます。たとえば女子は骨盤が広くなり、内股になりやすくなります。また、スポーツ中のジャンプの着地や方向転換で、膝が内側に入りやすい傾向があり、これは男子に比べてお尻や脚の筋力が弱いことも関係しています。

さらに、成長スパートの約1年後に初経を迎え、ホルモンの影響で体脂肪が増えたり、月経周期によって体調や気分が変わりやすくなることもあります。自分の身体のリズムや変化を知って、うまく付き合っていけるといいですね。

女子選手に多い膝が内側に入るフォームは、前十字靭帯損傷のリスクを高め、選手生命に関わる重大な怪我につながる可能性があります。予防トレーニングの実施は国際的にも推奨されており、フォーム(身体の動かし方)の改善にジュニア期から取り組むことが大切です。特にジャンプや着地など基本動作におけるフォームの乱れには要注意。まずは、自分の動きを客観的にチェックすることから始めましょう。次回の記事にて、フォームチェックの方法をご紹介します。

「ちょっと痛い…」を見逃さないで

成長期は、身体がどんどん変わっていく時期。筋肉や関節に負担がかかりやすく、練習や試合が増えることでも怪我のリスクは高まります。少しの痛みでも放っておくと大きな怪我につながることがあるので、「大丈夫」と我慢せず、早めに病院で診てもらいましょう。

とはいえ、「がんばりたい気持ち」が痛みを隠してしまうことも。また、どんな選手でも痛みを言い出しにくいことがあります。だからこそ、周りが気づいて声をかけることが大切です。

うまくなる、強くなる、そして楽しみ続けるために、一番大事なのは怪我を予防すること。ストレッチングやフォームの見直し、自分の身体の変化に気づくことが、パフォーマンスの土台になります。

「好き」を長く続けられるように。選手自身も支える大人も、一緒に怪我予防に取り組んでいきましょう。次回は、今日からできるストレッチングとトレーニングをご紹介します!

OPTメディカルアドバイザー プロフィール

横山 寛子(理学療法士、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)

東北福祉大学健康科学部リハビリテーション学科助教、弘前大学大学院医学研究科リハビリテーション医学講座客員研究員。スポーツ外傷・障害の予防に関する研究を行いながら、宮城県を中心に東北地方でスポーツ活動をする方々をスポーツ種目、世代、レベルを問わずサポートしている。怪我予防のためのエクササイズや動作指導を通じ、パフォーマンス向上や安全なスポーツ環境づくりを目指している。

 

星合 香 先生 (産婦人科専門医、公認スポーツドクター、日本医師会認定健康スポーツ医)

2018年、東北公済病院に東北初の女性アスリート外来を設立し、2021年よりマイナビ仙台レディースチームドクターに。競技スポーツや部活動など、競技レベルにかかわらず、スポーツを頑張る小学生からプロアスリートまで、幅広くサポートしている。

OPTについて

554人の女性・クィアアスリートの声から生まれたアンダーウェアブランド。2021年から、生理の日のパフォーマンスに伴走する『吸収型ボクサーパンツ』を開発・販売。これまで可視化されてこなかった女性たちの制限を解放し、パフォーマンスを最大化するプロダクトを届けている。OPT wagamama caravanプロジェクトを通して、全国各地80クラブ・2000名(2025年7月時点)の女子ユースアスリートたちと連携中。

オンラインストア:https://opt-onlinestore.com/
Instagram:https://www.instagram.com/opt_wagamama/

参考文献

  • 文部科学省(2023)令和5年度学校保健統計調査
  • 厚生労働省(2023)令和5年乳幼児発育調査
  • 公益財団法人日本スポーツ協会(2022)公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト,安全・健康管理およびスポーツ外傷・障害の予防
  • 金岡恒治・赤坂清和(編)(2015)ジュニアアスリートをサポートするスポーツ医科学ガイドブック,メジカルビュー社
  • Ramachandran, A. K., et al. (2024). Changes in lower limb biomechanics across various stages of maturation and implications for ACL injury risk in female athletes: A systematic review. Sports Medicine, 54(7), 1851–1876.

 

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編集:Ai Tomita
撮影:Kanae Fukumura
デザイン:mina ito