聞けなかった生理の話、星合先生に聞いてみた! ~スポーツに関わる人なら必ず知っておきたい基礎知識編~

聞けなかった生理の話、星合先生に聞いてみた! ~スポーツに関わる人なら必ず知っておきたい基礎知識編~

聞けなかった生理の話、星合先生に聞いてみた!
~スポーツに関わる人なら必ず知っておきたい基礎知識編~

生理に関する質問に回答するQ&Aコンテンツ「聞きたかったけど聞けなかった生理の話、星合先生に聞いてみた!」。前編となる今回は、アスリート本人に限らず、指導者や保護者、それぞれの立場でスポーツに関わる皆さんに知っておいてほしい基礎知識に関する質問にお答えしていきます。

女性アスリートの競技継続率の改善を⽬指す「Keep Playing プロジェクト」では、554人の女性・クィアアスリートの声から生まれたアンダーウェアブランドOPTと、女性アスリートの抱える課題を解決すべく共にアクションを行ってきました。

2024年3月8日の先日公開された国際女性デーに公開された実態調査の企画では、生理の課題が女子ユースアスリートが競技をする上での障壁になっていることが明らかに。

今回は、OPTのメディカルアドバイザーである星合香先生にご協力をいただき、スポーツに関わる人なら知っておきたい生理のあれこれを、みなさんから集まった質問に対するQ&A方式で答えていきます!なかなか話しづらい生理の話。

・生理が「重い」ってどんな状態?
・生理がこないとどんな悪影響があるの?

アスリートと指導者、保護者の三者の立場から、より心地よい環境を目指して一緒に考えてみませんか?

メディカルアドバイザー 星合香先生プロフィール

星合 香 先生 (産婦人科専門医、公認スポーツドクター、日本医師会認定健康スポーツ医)

2018年、東北公済病院に東北初の女性アスリート外来を設立し、2021年よりマイナビ仙台レディースチームドクターに。競技スポーツや部活動など、競技レベルにかかわらず、スポーツを頑張る小学生からプロアスリートまで、幅広くサポートしている。

生理の“重い/重くない”ってなに?

ご本人があまり困っていないようであれば、そっと見守ってあげてください。ただし、それが本当に「大丈夫」かという点には注意が必要です。

月経時の「重い」は大きく分けて二種類あります。

1つは月経時の痛みで、基本的に「ない」のが理想。我慢すべき痛みはありません。鎮痛剤を適切に飲みましょう。痛いと感じたらすぐ飲むのがポイント。痛みが強くなってから飲んでも、効き目は半減してしまいます。痛い日は1日3回しっかり飲んであげてください。それでも痛みが強い場合は病院へ。低用量ピルは、極少量のホルモンを使って月経をコントロールする薬で、月経の痛みや量、月経周期に伴って引き起こされる様々な症状を軽減することができます。病院で処方される低用量ピルは、ドーピングの心配はありません。婦人科でよく処方される漢方薬は、アンチドーピング規定の禁止物質を含む可能性があり、原則使用禁止です。ご自身の競技レベルに合わせて、処方してもらいましょう。

もう一つは、月経量。「夜用ナプキンが日中2時間でいっぱいになってしまう」「月経期間のうち3日間は日中夜用ナプキンが必要になる」場合は要注意!放置すると鉄欠乏性貧血が進み、パフォーマンスの低下を引き起こしてしまうことも。月経量のコントロールには、低用量ピルの服用が効果的です。鉄欠乏性貧血が進んでしまった場合、十分に回復するまで鉄剤の内服が必要になります。

その他、月経時の頭痛や嘔気、下痢、コンディション不良、あるいは、月経前の頭痛や身体のむくみ、便秘、メンタルの不調など、出血以外の症状に悩んでいることもあります。それが月経やホルモンに関係する問題で、改善することが可能な症状であることを知らない場合も多いので、やはり知識として知っておくことはとても大切です。

まずは、アスリート本人はもちろんのこと、支える周りの大人も、正しい知識を持ち、必要な場合にはしっかりと相談する、相談できる環境を整えることが大切になってくると思います。

コラム:月経とどうつき合う?アスリート向け!8つのアイデア

 

PMS(月経前症候群)* 月経前3"10日間の時期にホルモンの変動で起こるさまざまな精神的・身体的な不調のこと。

無月経と月経不順。無害?それとも有害?

一概に、激しいスポーツをしているからといって、初経が遅れるわけではありません。たとえ、激しいスポーツをしていても、それに見合ったエネルギーを食事からきちんと摂ることができていれば、しっかりと発育・発育が促され、身体が成長して初経が訪れます。

ただ残念なことに、競技種目、強度、レベルにかかわらず、必要なエネルギーを食事で十分に摂ることができていないために、身長が伸びない、初経が遅れてしまうアスリートが少なからずいるということです。

アスリートにとって食事はとても重要。特に成長期にあるジュニアアスリートは、この時期に十分に発育・発達が促され、しっかりとした身体を作っていくことが、その後の競技生活にも影響を与えるとても重要なポイントです。

ジュニアアスリートには、必須な順に、①生きるためのエネルギー、②発育・発達のためのエネルギー、③運動のためのエネルギーの3つが必要です。まずは①、②が十分に満たされた上で、運動するためのエネルギーをきちんと確保することで、しっかりとした身体を獲得し、思いっきりスポーツをすることができます。逆に「運動過多」あるいは「エネルギー不足」になると、発育・発達に使われるはずのエネルギーが運動するために使われ、様々な成長期の問題が引き起こされてしまいます。

まずは、過不足のないバランスの良い食事をしっかりと三食摂りましょう。ただ、通常これだけでは、運動をするためのエネルギーを補うことは難しいため、練習前後の補食を取り入れるなどの工夫をしてください。

特にジュニア期には、特定の食材、栄養素だけを「摂る」あるいは「摂らない」ようなことはやめましょう。過不足なく摂取することで、それぞれの栄養素が適切に機能し、身体をしっかりと作ってくれます。

自分が思い描くアスリートになるためにも、まずは食事から。初経の遅れは身体からのSOSです。15歳を過ぎても初経が来ない場合を「初経遅延」、18歳を過ぎても初経が来ない場合を「原発性無月経」と呼びます。できるだけ早めに対応することが1番のポイント。15歳を過ぎても初経が来ない場合、中学校卒業までに初経が来ない場合には、一度病院に相談してください。

コラム:無月経・月経不順が選手のキャリアに及ぼす影響

女性アスリート*に多い健康問題として、①エネルギー不足、②無月経、③骨粗鬆症の3つの状態が挙げられます(『女性アスリートの3主徴:FAT』)。運動に見合った食事量が摂取できていないために①エネルギー不足に陥り、その結果、ホルモンの分泌が低下して②無月経や月経不順となり、さらに骨を強くするホルモンであるエストロゲンが低下するため③骨密度の低下や骨粗鬆症が引き起こされる3つの状態です。放置すれば、選手生命を脅かしかねないほどの問題。エネルギーが不足した状態で無月経を放置すれば、骨密度が低下し、疲労骨折のリスクが高まります。10代のうちに、いかに一生分の骨量を獲得するかが重要。選手本人も気づかないうちにFATに陥っている場合もあるため、初経の遅れ、3ヶ月以上の月経不順、無月経、繰り返す疲労骨折などのサインがあったら、見逃すことなく、なるべく早く対応することが非常に大切です。

 

*女性アスリート:OPTは「女性だけに生理があるわけではなく、すべての女性に生理があるわけではない」という前提のもとさまざまな活動を行っています。また、スポーツ界のカテゴリーとして「女性アスリート」だと分けられている人も同様に、さまざまなジェンダー・アイデンティティの方がいると認識しております。

 

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