【座談会レポート】すべての人が夢を追いかけられる環境へ 生理にまつわる“隠れ我慢”をなくすために、周囲の大人ができること

【座談会レポート】すべての人が夢を追いかけられる環境へ 生理にまつわる“隠れ我慢”をなくすために、周囲の大人ができること

【座談会レポート】すべての人が夢を追いかけられる環境へ
生理にまつわる“隠れ我慢”をなくすために、
周囲の大人ができること

2024年春、スポーツ⽤品メーカーの株式会社モルテン(本社:広島市⻄区、代表取締役社⻑:⺠秋清史)は、554人の女性・クィア*アスリートの声から生まれたアンダーウェアブランドOPT(運営:株式会社Rebolt 代表者:内山穂南、下山田志帆)とともに女性ユースアスリートをお招きして座談会を実施しました。

⼥性アスリートの中には、⽣理による⾝体的な問題や⽣理⽤品による不快感を理由に、楽しいはずのスポーツが辛い時間になってしまっている選⼿が存在しています。

どれほどの選手が生理に悩んでいるのか。「隠れ我慢」の背景にあるものは何か。女性アスリートを取り巻く障壁を変えるために何ができるのかーーー。

本座談会ではファシリテーターに下山田志帆さん、アドバイザーとして砂本沙織さんをお招きし、昨年実施した「⼥性アスリートと⽣理」 に関する実態調査を元に、早稲田大学ア式蹴球部の4名の選手からお話を聞きました。

PROFILE
下山田志帆

株式会社Rebolt 共同代表。OPT ファウンダー。元女子サッカー選手。慶應義塾大学を卒業後、2017年にドイツに渡り、プロ選手として2年間プレー。帰国後、2019年から2023年まで、日本のなでしこリーグに所属していた。2019年には、現役選手としては日本で初めて同性のパートナーがいることをカミングアウト。「だれもがWAGAMAMAであれる社会」を目指し、株式会社Reboltを設立。女性・クィア*アスリートのためのアンダーウェアブランドOPTの運営や、D&Iを切り口とした企業・自治体向け研修を実施している。

PROFILE
砂本沙織 スポーツファーマシスト

スポーツの現場におけるアンチ・ドーピングを含む医薬品適正使用や、アスリート特有の健康課題について包括的なサポートを目指し活動。順天堂大学大学院スポーツ健康科学修士課程を修了し、現在同学医学研究科博士課程にて、スポーツ医学への知見をさらに深めている。2020 東京オリンピック・パラリンピックでは、選手村ポリクリニックにて調剤業務に従事。自身の高校時代にも、国籍・年齢・性別などにとらわれないユニークな環境で過ごした経験から、個性を尊重しながら、誰もが無理せずパフォーマンスを発揮できる環境の拡大を願って日々研鑽中。

 

「今さえ乗り切れば…」痛みをやり過ごしながらプレーする選手たち

下山田志帆(以下略):まず初めに生理で辛かった経験などあればお聞きしたいです。

白井美羽(以下白井):わたしはあまり生理痛がなくて、生理前にちょっと重たいなってお腹が気になるくらいかな。

生谷寧々(以下生谷):日常生活ではお腹のハリを感じます。練習とか試合になると、体が動くことで違和感もなくなっていく。動ける程度の痛みですね。

砂本沙織(以下砂本):体を動かすことで滞っていた血流がよくなり、痛みが軽減されるケースがあります。例えば、下腹部がちょっと痛いなら、股関節をストレッチすると楽になる可能性もありますね。 ただ、基本的には痛みを我慢して動かない方がいいと思う。まずは無理しないことが大切。

基本的に無理は禁物ということですね。とはいえ、どんなに辛くても休めないことってあると思うのですが。

後藤若葉(以下後藤):怪我でしばらく休んだことがあって。休み明け、久しぶりに動き始めたら生理痛がひどくなっちゃったんです。以前は耐えれてたのに、急に苦しくなった。いまは低用量ピルを飲んでいて、ある程度は楽になりました。それでもきつい時だったり、ピルを服用し始める前は痛み止めを飲んでましたね。薬剤師の親戚に「カロナールならドーピングにならないよ」と勧められました。

新井みゆき(以下新井):薬を飲んで耐えています。良くないと思いつつ、2錠しか飲んじゃいけないのを3錠飲んだり。

砂本:そういう人は多いと思います。あるトップレベルのアスリートが「痛み止めを通常の◯倍打って出場しました!」みたいな話が美談になったこともありますよね。絶対にダメという訳ではないけど、長期的な目で見た時に肝臓や腎臓への負担は見過ごせない。やっぱり専門家に1回診てもらいたいですね。「この試合さえ乗り切れば…」っていう気持ちはすごくわかる。そんなに過剰に飲まなくても済むようにコントロールできてたら最高なんだけど。

身体によくないとは思いつつも、とりあえず飲んでしまいますよね。後藤さんはどのタイミングで痛み止めを服用していましたか?

後藤:生理くるって分かった時点で飲んでいました。最初の二日間が特にきついタイプなので、二日連続で飲んでましたね。

砂本:良いタイミングだと思います!耐えられないほど痛くなってから飲む人が多いのですが、それだと薬が効きにくいんです。ある婦人科の先生は「 生理が始まったことに気がついたら薬を飲め!」と言っていたほど。3日間ぐらい飲めば治るならそれで大丈夫です。ただ、月の半分以上の日数飲まないといけないとか、飲んでも支障が出るぐらい痛い場合は病院にいって欲しいですね。

飲むタイミングによっても薬の効き具合が変わるんですね。他にもアスリートならではの悩みとかはありますか?

後藤:「生理用品が落ちる問題」は結構あるかも。ナプキンが経血を全部吸っちゃって、中のビーズみたいなものが全部漏れてきたことがある。練習中だからまだよかったけど、あれが試合だったら大変だなって。

新井:ナプキンから経血が漏れて白のユニフォームが汚れたことは何度もあります。当時はユニフォームを2枚持っていたからなんとかなっていたけど…

生谷:漏れって怖いですよね。結構量が多いんですけど、漏れてるところを人に絶対に見られたくないのでナプキンを重ねて使ったりしています。高校3年の頃からだんだん経血量が増えてきたので、これ1枚じゃ絶対足りないなと思って試行錯誤した。夜用の長いナプキンの上に小さいやつを重ねると中心部分がいっぱい吸ってくれるんですよ。

自分に合うモノを試行錯誤しながら見つけてきたんですね。タンポンとか、他のグッズはあまり使わない?

白井:経血量はそんなに多くないので、まだ使ったことはないです。勇気もないし。

後藤:(吸水ショーツを指して)こういうのを知っていたら使ってたかもしれない。

砂本:知らないから諦める人も多そう。あとは、周りの人も生理痛がしんどいと、生理ってそういうもんだと思っちゃうのかも。諦めるというか、受け入れる人が多いのかなと。

情報にふれることで見えてくる解決策、選手を支える大人たちにできること

これまで生理にまつわる悩みを誰かに相談したことはありますか?

後藤:チームの中で相談したことはないかも。いまは男性のトレーナーなので、しんどいとは言えるけど、生理について相談しても多分わかんないと思うので。

「気軽に話すこと」と「相談すること」は似て非なるものですよね。

白井:確かに。自分は生理があまりこない方なので、同じく生理不順に悩むチームメイトと話すことはあります。でも、食事をどう変えたらいいのかとか、どの薬がいいのか、どこに頼ればいいのかなどの情報がないのでしかたないよね、という感じに落ち着くのが現状かな。

砂本:チームの中に専門家がいないと、悩みの共有はできても解決方法までは辿り着けない。低用量ピルを知ってはいるものの、やっぱり身体への将来的なリスクが怖くてやめという人も多いと思います。一般的によく聞く不安として、ピルを飲んだら子供ができにくくなるとか、(一部の)ガンになるとかは、医学的には否定されていることも多い。むしろ、生理痛の原因を放っておくことのリスクの方が高かったりする。きちんと専門家と話さないと不安だけが膨れ上がっていくんですよね。

気軽に話せて、かつ相談できる場所が必要なんですね。みなさんは当事者としてどういう仕組みがあるといいなと感じていますか?

後藤:専属の管理栄養士の方が「ご飯どう?」くらいのテンションで声をかけてくれるんです。向こうから話してくれる。そういう距離感の看護師さんや薬剤師さんがいるといいな。自分たちのチームでは生理周期を把握するサービスを利用していて、生理がきたら入力するんです。そのデータを元に専門家の方の方から話しかけてくれたらいいかもしれない。

ちなみに女性の指導者や専門家の方がより相談しやすい?

生谷:生理を経験したことがある人だと、ある程度選手の気持ちがわかるとは思います。とはいえ、人によって生理の辛さは違うじゃないですか。(生理のある人の中には)生理ごときで休むなって考える人もいますし。

新井:ユース時代の男性の監督は話しやすかった。生理が重くてあまり動けなかった時「いつもと比べてあまり動けていないけどどうしたの?」って声をかけてもらったんです。それがきっかけとなり、正直に相談できるようになりました。

向こうから気にかけてくれたんですね。

砂本:きっと男性指導者のご対応も良かったんだなと。そこで「なんだ生理かよ、やれよ」って言われたらもう2度と話さないでしょ。話してみたら大丈夫だったという成功体験が、心理的安全性に繋がるのでその方の一言は大きかったなと思います。指導者の人にも勉強してほしい。指導者側もすごく悩んでいて、特に男性の方だと「どう声かけていいのかわかんない」とか「どこまで言っていいんですか?」という相談がくる。「気持ち悪いって思われたくない」という声もあるし、その指導者の方もよく話してくれたなと。双方にとって良かったケースだと思います。

“サッカー=男子のスポーツ”から次のフェーズへ 

最後に、生理に限らずで、女性アスリートとしてスポーツをする上で、みなさんが何を障壁だと感じているのか伺いたいです。

生谷:魅力、認知度ですかね。男性スポーツと比べると低く感じちゃう。女子サッカーのワールドカップは誰もがアクセスできる状態ではなかったのは残念でしたし、ファンがリアルタイムに試合を観戦できる機会がまだまだ十分でないと感じています。

後藤:わたしが出場したことのある国際大会も、決勝戦以外はリアルタイムで試合を観戦してもらえる環境は十分ではなかったので、同様に課題を感じています。

生谷:プロを目指す時に、トップリーグや国際大会の場に立っても、取り上げてもらえる機会が少ないなると、やっぱり男子がおかれている環境と私たちの環境にはギャップがあるって思っちゃう。 自分の場合はそこが障壁になっているのかな。同じぐらいの規模の大会は平等に男子も女子も取り上げる。そういうところから始めていくしかないのかなと思っています。

白井:あとは、クラブチームで上がるとしたら、女子は高卒で働いてからじゃないとプレーできないことが多いですよね。男子は違うのに。大学チームなら活動できるところはあるけど、学業のことを考えると選択肢は限られてくるし。

新井:自分の周りでもサッカーを続けるか悩んでる人も結構いました。大学まで一生懸命頑張ってもその先が厳しい。プロになっても男性よりも金銭的に厳しいので、サッカーは続けたいけど大学でちゃんと勉強に専念して、安定した企業に就こうとする人が多かった。

後藤:「スポーツ=男性のもの」だと考えられてる中で、男女でルールを分けていないスポーツってサッカーぐらいだと思うんですよ。同等に見てもらえるという点は嬉しい反面、男子ほどの迫力がなくてつまんないと言われると「いや、女子だからこそできるプレーがあるのに」と思ってしまう。男性スポーツの方が身体能力の高さを理由に花形とされやすいんですよね。どうすれば女子サッカーならではの魅力に目をむけてもらえるようになるのか、プロサッカー選手になる上で自分たちで考えていく必要のある部分だなと感じています。

すべての人が夢を追いかけられる環境を目指して 

日本における女性スポーツ*の競技登録者数は高校卒業を境目に、大きく減少してしまいます。

どんな競技レベルやライフステージでも、スポーツの持つ魅力に惹きつけられ、仲間と出会い、プレイを楽しみ、続けて欲しい。

当事者の声を集めただけでは社会は変わりません。

ひとりひとりの声を拾い、届ける。そして少しずつでもいいから前に進めていくこと。

アンケートや座談会で明らかになった現状を元に、かれらを取り巻く環境を一つずつ、確実に変えていきたい。これからも「好きなことを続けよう。スポーツを続けよう」― Keep Playing を呼びかけ、スポーツを継続する環境がより良いものになることに繋がっていくことを目指します。

 

クィア*:ヘテロセクシュアル(異性愛者)、シスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性と性自認が一致している)以外のすべてのセクシュアル・マイノリティを指す包括的な言葉

Writer:Ai Tomita
Design:Miu Kayama
Photo:Kanae Fukumura

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