私の 「feel the emotion」
パウリナ・フリッツ
- プロジェクト・シニア・アソシエイト, FIBA 財団 -
「バスケットボール・フォー・グッド」

「スポーツの価値は、ただ勝つことだけではありません。人々が成長し、繋がり合い、自らの人生やコミュニティに前向きな変化を生み出す力を与えてくれる力こそが、スポーツの本質です。」
スポーツには、文化や背景、あらゆる違いを超えて人々を結びつけ、強い連帯感を生み出す力があります。また、若い世代に「自分を信じる自信」を与え、地域社会に共通の目的をもたらしてくれます。 FIBA財団の「バスケットボール・フォー・グッド(Basketball For Good)」を通じ、パウリナ・フリッツ氏は、その現場を肌で感じてきました。このプログラムは現在、毎年37万6,000人以上の若者に届いており、その49%を女性が占めています。世界中の組織やユースリーダーをバスケットボールによって支援することが、社会課題の解決や意義ある変化の創出にどうつながるのか、彼女は日々その最前線を見つめています。 今回の独占インタビューで、パウリナ氏はスポーツが持つ感情や力についての思いを語ってくれます。そして、もっともやりがいを感じる瞬間について光を当てます。それは、「バスケットボール・フォー・グッド」に心を動かされた多くの人々が、自分の未来を自らの手で切り開き、このエキサイティングな取り組みとの出会いをきっかけに、長く変化を起こし続けていく姿を見る瞬間なのです。
スポーツの真の価値とは何でしょうか?
私にとって、スポーツの最大の価値は、文化や背景、あらゆる違いを越えて人々を結びつけ、「つながりの実感」や「目指すべき目的」を共有させてくれる、その圧倒的な力にあります。 スポーツ、特にバスケットボールは、若者たちが自信やレジリエンス(逆境を乗り越える力)、チームワーク、リーダーシップを育み、コートの枠をはるかに越えた「人生で役立つスキル」を身につけるのを後押ししてくれます。 結局のところ、スポーツの価値は試合に勝つことだけではありません。人を育て、人と人とを結びつけ、自分の人生や地域社会をポジティブに変えていく力を与えてくれることこそが、スポーツの本質なのです。

あなたにとって、スポーツから生まれる「感情」とはどのような意味を持ちますか?
スポーツがもたらす感情は、地域社会やチームワーク、そして「自分はここにいていいんだという一体感」と深く結びついています。バスケットボールを通じて、勝利の喜びも、敗北の悔しさも、困難や祝福の瞬間も、そうした体験を分かち合うことで、まるで家族のような強い絆が生まれ、異なるバックグラウンドを持つ人々が一つになる姿を何度も目の当たりにしてきました。 こうした感情は、スポーツが単なる勝負の世界ではないことを教えてくれます。それは、人とつながり、支え合い、自分一人よりも大きな「何かの一部」になれるという実感をもたらしてくれます。 そして同時に、スポーツはさまざまな感情に向き合い、それを前向きなエネルギーへと変える力も持っています。私にとって、それこそがスポーツのもつ最も強力な魅力の一つです。
FIBA財団で働こうと思った一番のきっかけは何ですか?
FIBA財団の「バスケットボール・フォー・グッド」部門は、私がずっと情熱を注いできた「バスケットボール」と「社会に変革をもたらすこと」という2つの情熱を、完璧に結びつけてくれる場所だったからです。 もともと、FIBA財団が主催するオンラインの「ユースリーダーシップ・プログラム」に参加していたのですが、その最中に「バスケットボール・フォー・グッド」のインターンの募集が出ました。応募したところ見事に採用され、その後は正社員として、「バスケットボール・フォー・グッド」のプログラムの取りまとめを担当させてもらえることになりました。そして、今日に至ります。
これまでの活動の中で、特に印象に残っている瞬間はありますか?
この仕事をしていて一番やりがいを感じるのは、私たちが育成したFIBA財団の「ユースリーダー」たちが、自分たちで「バスケットボール・フォー・グッド」のプロジェクトを立ち上げ、地域社会に意味のある変化をもたらしながら、いきいきと成長していく姿を見る時です。 どんな困難に直面しても諦めず、限られたリソースの中で柔軟にアイデアを生み出していく彼らの姿には、いつも深く心を動かされます。その挑戦をほんの少しでも支えることができるのは、本当に光栄なことです。 そして何より特別なのは、ワークショップに参加してから何年経っても、多くのリーダーたちが近況を報告し続けてくれることです。彼らの活動がもたらす長期的な成果をその目で見届け、それぞれの物語とずっとつながっていられること。そうした関係性は、本当にかけがえのないものです。
今の仕事で苦労していることや直面している課題があれば教えてください
最大の課題の一つは、「バスケットボール・フォー・グッド」のコミュニティが急速に拡大するスピードに合わせながら、参加している誰もが、しっかりつながりを感じ、サポートされ、主体的に参加し続けられるようにすることです。 多くの組織やユースリーダー、パートナーがこのムーブメントに加わるにつれて、これほど多様なグローバル・ネットワークの中で意義深い関係性を維持し、協働の機会を生み出すことは、ますます複雑で難しい作業になっていきます。 しかし、それは同時にワクワクするような挑戦でもあります。コミュニティが大きくなるということは、それだけ多くの人々がバスケットボールを通じて重要な社会課題に挑み、互いに学び合えるチャンスが増えるということだからです。
あなたの活動の一つに「社会貢献プロジェクトの公募(Propose a Project)」がありますが、これについて詳しく教えていただけますか?
毎年開催している「社会貢献プロジェクトの公募(Propose a Project)」プラットフォームを通じて、私たちは、独自の「バスケットボール・フォー・グッド」プロジェクトを運営している世界中の各国バスケットボール連盟や地域組織に対し、資金面、用具面(ボール・Tシャツ)、そしてメンターによるサポートを提供しています。 2026年には、79カ国から集まった100件のプロジェクトを支援しています。それらのプロジェクトはすべて、健康とウェルビーイング、ジェンダー平等、難民や障がいを持つ人々のインクルージョン(社会的包摂)、そして気候変動対策といった分野で、バスケットボールを活用してポジティブなインパクトを生み出しています。 このプログラムの素晴らしいところは、どのプロジェクトもそれぞれの地域社会に深く根ざしている点です。現場を率いるリーダーたちは、自分たちの周りにある課題をしっかりと理解し、バスケットボールをどうすれば変革のための強力なツールにできるかをよく分かっています。

モルテンは、こうしたプロジェクトにバスケットボールを提供していますが、そのボールが実際にどのように活用されているのか、具体的な事例を教えていただけますか?
モルテン社の寛大なご支援のおかげで、私たちは毎年4,000個を超えるバスケットボールを、世界中の素晴らしいプロジェクトに届けることができています。 その一例が、ケニアの「カクマ難民キャンプ」です。難民の人々と受け入れ地域のコミュニティをつなぎ、社会的結束を深めるために開催された大規模なバスケットボール大会に向けて、私たちはボールを届けました。 多くの国では、小さめのサイズのバスケットボールが手に入りにくいため、子どもや少女を対象としたプロジェクトでは、5号球や6号球へのニーズが特に高くなっています。 中でも特筆すべきなのが、モルテン社と一緒に開発した「サイズ4のミニバスケットボール」です。子どもたちが扱いやすく、カラフルで特別なデザインが施されたミニボールです。 このボールは、世界中のさまざまな国で大変な人気を集めています。そして、そのインパクトは最初のプロジェクトが終わった後もずっと続いていきます。ほとんどの場合、提供されたボールはその後何年にもわたって大切に使われ、多くの子供や若者たちがバスケットボールと出会い、その魅力を好きになるきっかけを作ってくれています。それは、私たちが地域社会に直接届けられる、目に見える形のある支援です。

あなたご自身が日本に特別なご縁がおありとのことですが、ぜひもっと詳しく教えてください!
2019年9月から2021年3月まで、筑波大学でスポーツ・オリンピック学の修士号を取得しました。
在学期間の大半がコロナ禍と重なってしまい、故郷から遠く離れた場所で長期間を過ごすのは本当に試練の連続でした。私たちのプログラムには15カ国から17人の学生が在籍していましたが、誰もがそれぞれの立場で困難を乗り越えようと奮闘していました。

そんな状況でありながらも、日本での生活は本当に楽しいものでした。礼儀を重んじる文化にはとても感銘を受けましたし、さまざまな活動が一定の制限や感染対策のもとで行わざるを得ない中でも、屋外で多くの時間を過ごすことができました。 スポーツを楽しんだり、公園でピクニックをしたり、いろんな街を訪れたり、長野へスキーに行ったりもしました。バスケットボールのコートを自分たちで借りて、何度も汗を流しましたね。 あの時期は、本当にさまざまな感情が入り交じっていましたが、スポーツへの情熱が私たちを一つに結びつけ、文化の壁を越えて深い絆を築くことができました。 シンガポール、ボツワナ、タンザニア、グアテマラ、そしてもちろん日本という、多国籍なクラスメートたちと結成した、特別な「カラオケ仲間」さえいたほどです!それらは、私がこれからもずっと大切にしていきたい思い出です。

あなたにとって「feel the emotion」とはなんでしょうか?
私にとって「feel the emotion」とは、スポーツがなぜ大切なのか、その本質を捉えた言葉です。 スポーツは私たちがずっと心に残る瞬間を生み出します。試合のワクワクする興奮、負けたときの悔しさ、みんなで何かを成し遂げたときの喜び、あるいは単にチームの一員であるという温かい感覚などです。 しかし、そうした感情はコートの上だけに留まるものではありません。それは自信を生み出し、友情を育み、コミュニティを築き、人々に一歩を踏み出す行動力を与えてくれます。 だからこそ、この「バスケットボール・フォー・グッド」においてはそれが非常に重要なのです。私たちは、人々がバスケットボールの楽しさや感情を味わうだけでなく、そうした感情を原動力に変えて、コートの外でも何かポジティブな変化を生み出してほしいと願っています。

日本に留学中、レクリエーションとしてバスケットボールをする機会があったそうですね。そのときの思い出話を教えてください。
バスケットボールは、私たちが仲良くなるきっかけの一つでした。一緒にプレーすることは、とても特別な何かがあります。 必ずしも同じ言葉を話せたり、同じ文化的背景を持っていたりする必要はありません。コートに立てばその瞬間に何かを共有できるのです。 これは、パナソニックでのインターンシップ中にも再び経験しました。地元の中学校を訪れ、子どもたちにバスケットボールや私の国際的な経験について話をする機会があったのです。 子どもたちとシュート対決をしたのですが、なんと中学生チームが勝ったんです! その勝負のおかげで、一気に雰囲気が和みました。まさに、バスケットボールが持つ力を示す完璧な例ですね。普段なら乗り越えるのに時間がかかるかもしれない文化や言葉の壁が、その瞬間にはすっかり小さくなりました。 私たちはただ一緒にプレーし、楽しみ、そしてゲームの感動を分かち合っていたのです。

あなたの今後の目標や、スポーツを通じて伝えたいメッセージは何ですか?
今後も世界中の「バスケットボール・フォー・グッド」の輪を広げ、バスケットボールを通じて社会的インパクトを生み出し、さまざまな社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。 その中で、ユースリーダーや現地のコミュニティ組織を育成し、エンパワーメントしていくことが大きな柱となります。 同時に、世界中の志を同じくする仲間たちとの交流は、私にとって何ものにも代えがたいやりがいとなっています。そうしたつながりを通して、日々多くのことを学び、成長させてもらっています。 そして、個人的に特別な目標が一つあります。ドイツ(FIBA女子バスケットボールワールドカップ2026の開催国)出身でありながら、日本で1年半を過ごして日本文化が大好きになった私としては、将来、FIBA女子バスケットボールワールドカップ2030の日本開催に向けて力を尽くしたいという夢があります。 その大会が残す長期的な社会的インパクトやレガシー(遺産)の構築に貢献し、バスケットボールと地域社会、そしてパートナー企業が一つになったときに何が実現できるのかを形にしていきたいのです。 そして、それをモルテンの皆さんと一緒に成し遂げられたらと心から願っています。 なぜなら、バスケットボールの未来とは、私たちがコートで行う試合だけのものではないからです。それは、バスケットボールを通じて人と人とをつなぎ、コミュニティを強くし、ポジティブな変化を生み出していくことそのものだからです。 それこそが、私がスポーツの持つ感情を最も強く実感する瞬間なのです。