「もうバスケはいいかな」から、
子どもたち自身の「続けたい」へ。
LEOVISTA髙島あゆみが考える競技継続のヒント
本企画は、株式会社モルテンが展開する女子スポーツを応援する「Keep Playing」とのタイアップ企画です。女子サッカーまたはバスケの選手や指導者を対象に、現在のそれぞれの取り組みへの思いや競技環境についての現状などを伺います。
千葉県柏市を拠点とする「LEOVISTA BASKETBALLCLUB」は、2014年に誕生した法人型小中学生一貫の地域クラブです。チーム名の“レオヴィスタ”には「勇敢な未来の星(子どもたち)」という意味が込められており、元プロ選手や日本代表経験者の指導のもと、5歳から大人まで幅広い世代が日々努力を重ねています。
そんなクラブでメインコーチを務めるのが髙島あゆみさん。小学4年生でバスケを始め、高校・社会人チームでプレーした後、指導の道へ。現在は小中学生を中心に指導にあたっています。
今回はそんな髙島さんに「怒られ慣れていない」子どもたちとの接し方や、コロナ禍を経験した小学生が抱える課題、そして競技を長く続けてもらうために必要な取り組みなど、多方面にわたるお話を伺いました。
Keep Playing とは?
日本における女性スポーツ(※)の競技登録者数は高校を卒業後、大きく減少してしまいます。どんな競技レベルやライフステージでも、スポーツの持つ魅力に惹きつけられ、仲間と出会い、プレイを楽しみ、続けて欲しいと考えています。このメッセージが多くのスポーツをする人・みる人・支える人に届くことで、興味・関心につなげ、スポーツを継続する環境がより良いものになることに繋がっていくことを目指しています。
※2022年バスケットボール、サッカー、ハンドボールの女性競技登録者数を参照
高校生から18歳以上になると競技登録者数はバスケットボール74%、サッカー29%、ハンドボール80%減少。
怒られずに育ってきた子どもたちへのアプローチ方法
ー最初にこれまでのキャリアについてお話しいただけますか?
バスケを本格的に始めたのは小学4年生で、最初は地元のミニバスチームに入りました。高校は神奈川県内の学校にスポーツ推薦で進学し、卒業後は甲府クィーンビーズ(現・山梨クィーンビーズ)で2年間プレー。その後、地元に戻って社会人チームで10年以上バスケを続けてきました。
指導に携わり始めたのは、23、24歳の頃です。まずは母校でアシスタントコーチを務め、それをきっかけにスクールやクラブチームなどで10年以上指導を続けてきました。昨年からはレオヴィスタに所属し、小中学生を中心に指導を行っています。
ー選手として競技に打ち込みつつも、20代前半から指導者を目指されたのは、どのような経緯や思いがあったのでしょうか?
私自身バスケが大好きで、物心ついたころから「自分が学んだことを次の世代に伝えたい」という思いがありました。いつかはオリンピック選手や有名選手を育てたいという大きな目標もあって、20代の間は選手として試合に出場しながら指導にも取り組んでいたんです。
ところが30代前半で怪我をしてしまい、それを機に本格的に指導者の道へ進むことを決めました。もともと中高生を中心に教えたいという気持ちが強かったのですが、ミニバスの指導を頼まれたことで、小学生を教える機会が一気に増えましたね。
ー指導をする中で感じる、中高生と小学生の違いについて教えてください。
中高生は、大会や試合で結果を出したいという気持ちがあるので「どうやったら上手くなれるか」を自分で考えて行動する子が多いですね。一方、小学生は「バスケをやりたい!」という素直な気持ちで、練習や試合を純粋に楽しんでいる感じでしょうか。それ自体はとても良いことですが、言葉の理解や技術の習得にはやはり時間がかかります。
実際に小学生と接していると、「もう当たり前にできるよね?」と思っていたことが、意外とできていない場面にたびたび遭遇しますね。
ー具体的にはどういったことができていないのでしょうか?
たとえばボールと体の動きが噛み合わず、つい手先だけで扱ってしまう子が多いんです。ジャンプ一つとっても「自分で考えて動く」意識が足りない子が目立ちますね。
日本バスケットボール協会もU12世代にコーディネーショントレーニングをしっかりやりましょうと提唱していて、私たちも取り入れてはいるんですが、「これくらいは大丈夫だろう」と思っていたメニューができないこともしばしば。その場合、かなりレベルを落として、基本から教え直す必要があります。
特に小学5、6年生のうちに身につけてほしいことがたくさんあって、運動神経が良い子はすぐ吸収できても、そうじゃない子には別のやり方を考えてあげるなど、日々試行錯誤の連続です。
ー言葉ではなかなか伝えるのが難しい部分ですね。
そうですね。さらに、こちらが「分かった?」と聞くと「はい」と答えるものの、いざやってみると分かっていないケースもよくあります。「分からないなら質問しよう!」と促しても、それすらなかなか伝わらず、分からないまま練習を始めてしまう子もいるんです。
ー実際に指導現場では、どのような方法で伝えているんでしょうか?
プレーで分からないところがあれば、一緒に動きながら「こうやったほうがいいんじゃない?」と具体的に示して教えています。ただ、本気でバスケが上手くなりたいのであれば、コーチに言われたことだけをやるのではなく、自分から考えて動く姿勢が大事だとも伝えています。やはり選手としてやっていく以上、言われたことをこなすだけでは限界がありますから、自主性を持って練習に取り組むように促しています。
ー子どもたちのモチベーションを高めるために、具体的にどんなアプローチを心がけていますか?
コートの中と外でオンオフをはっきり分けるようにしています。コート上ではある程度の厳しさも必要ですが、コートを離れたらできるだけ子どもたちと会話をして、気持ちの理解に努めます。
というのも今の子どもたちは、ちょっと注意されただけでやる気を失ってしまうことが多いんです。だからこそ、指摘のあとに良いプレーが見られればすぐに褒めてフォローする。昔のように「怒られるのが当たり前」という風潮はありませんから、厳しく言ったあとは「次はこうしようね」と声をかけて、ポジティブに受け止めてもらえるよう心がけています。
また、親御さんの協力も欠かせません。コーチが厳しく伝える分、家でしっかりサポートしてもらえると、子どもたちもモチベーションを保ちやすいと思うんです。お互いにフォローし合いながら、子どもたちが前向きに練習に取り組める環境をつくりたいと考えています。
「バカになってやれる」くらい、楽しんでほしい
ーバスケを通じて、子どもたちに特に伝えたいことや学んでほしいことは何でしょうか?
挨拶や礼儀、集団行動の大切さ、そして声を出してコミュニケーションを取ることの大切さですね。上のカテゴリーでは声を出すのが当たり前で、出せないままだといつか困ることになると思います。とはいえ、どうやったら子どもたちが声を出してくれるのか、正直すごく悩んでいます。そこが今いちばんの課題ですね。私たちもいろいろ工夫しながら取り組んでいるところです。
ー声を出さないと、プレータイムが減ることもありますよね。
そうなんです。声が出せないと連携が取りづらくなるため、どうしてもプレータイムは減ってしまいます。それはモチベーション低下に直結するので「間違ってもいいから声を出そう」「とにかく答えてみよう」といつも促しています。でも、いざ試合になると、まだまだ声を出せない子が多いですね。
ーカテゴリーが上がるにつれて選手同士の声掛けや連携が当たり前になりますが、そのコミュニケーション能力はいつ、どのように身につくものなのでしょうか?
私の場合、小学生のミニバス時代は本当に「ただ楽しくやっていた」という感じでした。でも、中学校に進むと身長もそこそこ伸びて、しかも先生が厳しくて「ここで本気でやらないとバスケができなくなるかもしれない」と危機感を抱いたんです。そこで初めて、仲間や先生とコミュニケーションをきちんと取らないと自分が置いていかれる、と意識するようになりました。
高校や実業団でも「自分を表現しないと生き残れない」ということを痛感してきましたし、自分をアピールするためにも、声を出して意思を伝えるのは本当に大切なことだと思います。これはバスケに限らず、指導者や社会人としても必要なスキルですよね。
「バカになってやれる」くらい、バスケやスポーツを楽しんでほしいんですよね。恥ずかしいとか、周りの目が気になるとか、そういった理由で声を出せないまま終わってしまうのは、なんとももったいないというか。前のめりに行動する子がもう少し増えれば、チーム全体の雰囲気も変わるし、みんな今よりもっとバスケを楽しめると思います。
背が伸びない、中高時代のケガ、栄養不足…競技継続を阻む複数の壁
ー日本では女性スポーツの競技登録者数が高校卒業後に大きく減るというデータもありますが、女子バスケの場合、どんな要因が継続の壁になりやすいのでしょうか?
女子の場合、大学やWリーグへ進むのは本当に一握りで、「もうここでバスケはいいかな」と高校でやめてしまう子が大多数を占めます。一方、男子の場合は、中高以降も背が伸びたりして将来を見据えて頑張る子も多いんです。でも女子は小学6年生から中学生くらいで身長が頭打ちになることが多く、「自分は背が小さいから、上に行くほど厳しいかも」という理由でバスケから離れる子もよくいます。
それに、女性ならではの身体的な問題も大きいですね。たとえば、生理やホルモンバランスの変化でケガのリスクが高まることもありますし、中学や高校の時期に大きな怪我を経験すると、そのまま競技を離れざるを得ないケースも少なくありません。
特に最近は、食べ物の好みやアレルギーの影響で必要な栄養が十分に摂れず、筋肉がつきにくい子が増えているように感じます。こうした複数の要因が重なることで、競技を続けるのはやはり簡単ではないなというのが、私の正直な感想ですね。
ーでは、そうした女子特有の課題があるなかで、高校を一区切りにせずバスケを続けてもらうためには、どのようなサポートや取り組みが必要だとお考えですか?
一つは目標の持ち方だと思います。私自身「日本代表を目指したい」「あんな選手になりたい」という気持ちをずっと持ち続けてきたからこそ、バスケをやめずに頑張ってこれましたし、具体的な目標を設定できれば「もう少しやってみよう」「続けたい」という気持ちを引き出せるんじゃないかなと。ただ、周りの大人が一方的に「将来の夢」を押しつけるわけにはいかないので、あくまでも本人が明確な目標を見いだせるようにサポートすることが大切だと思います。
それに背が低くても、本当は身長以外の持ち味をきちんと生かせれば、いくらでもバスケは続けられるはずです。さらに、ケガを予防するためのストレッチや整骨院でのケアなど、体への自己投資も競技を長く続けるうえでは欠かせないポイントだと思います。
あとは、もし高校で部活動をやめたとしても、大学の同好会やクラブチームなど、バスケを続ける道はたくさんあります。社会人になってから週末だけ地域のクラブでプレーすることも選択肢の一つですよね。レベルや環境にとらわれず、自分に合った形でバスケを楽しめる方法が見つかれば、高校卒業後も続けられる子はもっと増えるのではないかと思います。
ー最後に、指導者としての今後の目標やバスケを通じて伝えていきたい思いをお聞かせください。
これまで指導してきた子どもたちには、できるだけ長く競技を続けてほしいと思っています。バスケを通じて培われるコミュニケーション能力やリーダーシップ、仲間と協力する姿勢などは、社会に出ても大いに役立つはず。だからこそ指導者として、子どもたちの成長をしっかりサポートしながら、バスケの楽しさとスポーツが与えてくれる可能性を伝え続けていきたいですね。